2022年11月1日
つねに“産地初”の挑戦を ミタニの伝統を未来につなぐ近代漆器
ありそうでなかった本格的な樹脂製漆器の「ラーメンどんぶり」、ペットボトルリサイクル素材を使った「MIYS」のお弁当箱……創業190年以上の漆器メーカー・有限会社ミタニの商品ラインナップには個性的なアイテムが並びます。時代の感性に合った商品をいかに提供し続けてきたきたのか、同社のものづくりの舞台裏に迫りました。
クラファンで注目!ラーメン好きによるラーメン好きのための「ラーメンどんぶり」
ミタニといえば、ラーメン専用の樹脂製漆器「ラーメンどんぶり」が話題です。こちらはどういった商品なのでしょうか。
「ラーメンどんぶり」は、陶磁器に負けない本格的なラーメン鉢を目指して製作した新商品です。
「陶磁器に負けない」最大のポイントは、とにかく扱いやすいこと。割れにくく丈夫であるのに加え、重さは同じサイズの陶磁器製の半分程度で、また熱くなりにくいため、お子さんやご高齢の方も安心してアツアツのラーメンを楽しめるようになっています。形状にもこだわり、持ちやすさから重ねやすさまで考えてオリジナルの金型を開発しました。食洗機や電子レンジにも対応しており、気軽に使っていただけるのも魅力です。
こうした扱いやすいプラスチック製でありながら、しっかりとした塗りで上質さを感じられるのも特長です。カラーデザインはそれぞれのラーメンの味に合った4種類を展開。「THEしょうゆ」はしょうゆスープの琥珀色が映えるオフホワイト、「THEとんこつ」は白濁スープとのコントラストが際立つ赤ベースなど、選ぶ楽しみもあります。
とても魅力的でユニークな商品ですが、どのような経緯で生まれたのですか?
当社社員や山中の職人など産地のラーメン好きが集まって「せっかく漆器を生業にしているのだから、家で作った即席ラーメンも漆器に盛り付けたいよね」「まだ世にないなら自分たちで作ろうか」と話していたのがきっかけです。開発時には既存のラーメン鉢のほか、ラーメン以外のどんぶりも参考にして形やデザインを考えるなど、試行錯誤しましたね。
実際に商品化してみて、反響はいかがですか?
山中では初のクラウドファンディングプロジェクトを立ち上げたところ、目標金額を大幅に上回って成功することができました。現在では個人のお客さまからネットショップ経由でお買い求めいただいているほか、都市部のラーメン店さまにもご活用いただいています。店内で使う食器として扱いやすいですし、テイクアウトの「お土産ラーメンセット」にもピッタリだそうですよ。
プロジェクトの第2弾として「楽楽ボウル」のクラウドファンディングにも成功していますね。
はい。「楽楽ボウル」は「ラーメンどんぶり」と同じ金型を使いつつ、ラーメンだけでなくほかの料理にも幅広く使っていただけるように企画した商品です。
「楽楽ボウル」というネーミングには「『楽』に食事の支度や後片付けができ、『楽』しい食事の時間を過ごせるボウル」という意味を込めました。ワンプレートならぬ「ワンボウル」で、毎日の献立を考えたり、盛り付けたり、食器を洗ったりする時間を短縮。またカラーデザインは鶴仙渓のもみじや加賀友禅などをモチーフにした8色で、山中のある石川県加賀市の自然や文化を身近に感じていただけるものになっています。
そばやうどん、パスタといった麺類のほか、親子丼や海鮮丼などのどんぶりものや、サラダにもピッタリのボウルとなっています。
山中の“当たり前”にスポットを 再生素材の弁当箱「MIYS」
続いてご紹介いただくのは、環境に配慮したお弁当箱のシリーズ「MIYS(ミース)」。こちらはどのような商品なのですか。
「MIYS」はシンプルなデザインの一段ランチボックスのシリーズで、原材料である樹脂の約80%がペットボトルリサイクル素材となっているのが最大の特徴です。通常サイズのランチボックス1個で500mlペットボトル約6.5本分、メンズランチボックス1個で約8本分をリサイクルできる計算になっています。プラスチックごみ削減につながるのはもちろん、再生素材ではないバージン原料を使った場合と比較してCO2を約70%削減できる効果もあります。サステナブルなコンセプトが注目され、新商品ながら反響の大きい商品ですね。
こちらはどういう経緯で開発されたのでしょうか。
取引先の小売店さまからのリクエストがきっかけです。SDGsが謳われ、環境保護やサステナビリティへの機運が世界的に高まっていますが、いわゆるエシカルな商品はどうしても割高。もっと気軽に手に取っていただけるよう、価格を抑えた商品を作れないだろうか──そうした問題提起を受けて着目したのがペットボトルリサイクル素材でした。
実はペットボトルリサイクル素材の活用自体は、山中では決して珍しくありません。とはいえ、これまで普及してきたのは、あくまでバージン原料よりも安価に生産できるためで、環境面の付加価値にはほとんどスポットが当たっていなかったんです。「それではもったいない。今からでももっとアピールできないか」と考え、「MIYS」のコンセプトが決まりました。
値段の安さや扱いやすさだけではない、山中の樹脂製漆器の価値を感じていただける商品だと自負しています。
産地をリードするパイオニア 190年にわたる変革と挑戦の歴史
いずれも非常に今っぽい、新しい感性の商品を産地でも先駆けて展開していて、約190年の歴史があるメーカーとしてのイメージをよい意味で裏切られるように感じます。
当社は江戸時代の天保元年(1830年)創業ですが、確かに古いイメージはあまりないかもしれませんね。実際に現在展開している商品も、20〜40代の若い方にお買い求めいただくことが多いです。つねに時代の価値観、感覚に合ったものづくりを続けてきました。
戦後の高度成長期以降、木製漆器からいわゆる近代漆器へと舵を切ったのもそのひとつですね。
はい。その後も時流に合わせ、時に大胆に事業展開の軸を変えてきました。例えば、近代漆器に方針転換した当初は、ゴージャスな「盛り蒔絵」を施した純和風の雑貨を多数展開し、法人のお客さまの記念品として支持されてきました。これに対して、近年ではシンプル、ナチュラルな商品へとガラリと方針転換。今や山中の近代漆器の定番商品となっている木目調の汁椀も、実はミタニがパイオニアです。直近では、コロナ禍でニーズの高まる抗菌対応の商品にいち早く取り組みました。
もちろん、いずれも流行に乗るだけでなく、品質を徹底しています。今もなお得意とする盛り蒔絵では、スクリーン印刷技術の活用により手描きではなしえない多彩な表現が可能に。木目調の汁椀については塗装を一度で終わらせず、下地、研ぎ出し、上塗りと、木製漆器と同じ工程で塗りを施して、木製に劣らない見た目と触り心地を実現しています。抗菌対応の商品も「JIS Z 2801」抗菌性試験をクリアしているなど、高い機能性が認められています。
たくさんの新しいアイデアはどのように生まれているのでしょうか。
大半は何気ない日常会話がヒントになっていますね。取引先の小売店さまと話しながら、都市部ならではの感覚に根ざした一言にハッとさせられたり、社内の雑談でも、子育て中の女性や働き盛りの男性など、消費者の方々の感覚に近いリアルな意見が飛び交ったり──。そうしたちょっとした会話の中でもアンテナを張り、ピンときたアイデアをスピーディに商品化して、世に求められているものをタイムリーに提供してきました。
ものづくりをする企業としては基本的なスタンスかもしれませんが、それこそが190年にわたって挑戦を続けてきた礎なのではないかなと思っています。
直営オンラインストア、海外展開……チャレンジは終わらない
挑戦と変革を続けるミタニが、今後チャレンジしたいことはありますか。
ネットショップに注力し、より多くのお客さまに商品をお届けしていきたいと考えます。直営のオンラインストアも一般のお客さま向けに開設していますので、ぜひご訪問いただき、お気に入りの商品を見つけていただきたいですね。
さらに中長期的には、海外向け商品も強化していきたいと考えています。まずはアフターコロナに向け、観光客の方が来日のお土産にしていただけるような「和」を感じる商品をより充実させていきたいです。ゆくゆくは海外展開にもチャレンジしたいなと思っています。
最後に「デジタル展示場」を訪問されている方へメッセージをお願いします。
「漆器」「伝統工芸」と聞くとハードルが高いと感じてしまうかもしれませんが、私たちが製作・販売する樹脂製の漆器は丈夫で扱いやすく、またシンプルなデザインで普段使いしていただきやすいものになっています。こうした近代漆器があることもまた、山中塗を語る上で外せない魅力です。ぜひ毎日、長く使っていただきながら、山中塗の魅力を感じていただければ幸いです。
有限会社ミタニ

有限会社ミタニは創業およそ190年。
江戸・天保元年より山中漆器の歴史とともに歩んできた老舗の漆器メーカーです。
当社には他に類を見ない伝統の蒔絵技術があり、それらを生かしつつも今の時代に見合った商品の開発に尽力しております。
石川県加賀市別所町漆器団地22-5