2022年1月1日
和柄が日々をあでやかに彩る 古くてあたらしい加賀工藝社の蒔絵
1945年創業の大辻漆器が展開するブランド「加賀工藝社」。リーズナブルで上質な商品づくりに適したシルクスクリーン蒔絵の技術を生かし、多彩な商品をラインナップしています。今回は、繊細な絵柄を表現するその技術や、同社が大切に受け継ぐ和柄に込められた意味などについてインタビュー。若い世代にもアプローチするモダンなデザインの新商品や、これからの時代の漆器に対する思いなどについても伺いました。
シルクスクリーン蒔絵を生かした、女性目線の商品開発
大辻漆器さんのこれまでの歩みについて教えてください。
当社は、終戦間もない1945年、山中温泉で「大辻憲太郎商店」として創業。1955年頃からは、付加価値の高い、使いやすい近代漆器の企画・デザインを行うようになりました。1976年には法人化し、「大辻漆器」に。シルクスクリーン蒔絵の技術を用いて、ギフト商品やお土産品のほか、インテリア漆器や文房具まで、多様な商品を手掛けてきました。特に和柄のマウスパッドは、当社の実用新案商品でした。
2019年、先代の逝去を受けて、義娘である大辻むつみが代表に就任しました。それまでは会社員でしたが、「山中が誇る伝統工芸をなくしてはならない」という強い思いを持って事業を承継。女性目線でさまざまなオリジナル商品を開発しています。
現在は、「加賀工藝社」ブランドで商品を展開していますね。
現代表が就任してからは、「加賀工藝社」のブランドを使用しています。じつはこの名前、初代の大辻憲太郎が一時使用していた商標なんです。大切にしているのは、シルクスクリーン蒔絵の特性を生かした、繊細で多彩な表現。また、SDGs(持続可能な開発目標)を実践するため、環境負荷の小さいプラスチック素材や、食材を直接入れても害のない素材を採用しています。
直近の取り組みでは、京都の型絵染の「伊砂文様(いさもんよう)」を取り入れたノートカバー「絆世 TSUNAGUYO」をリリースしました。古くから伝わる和柄をモダンにアレンジした3つの柄を採用。交換式のノートは、国産の高品質な「ツバメノート」です。書くことが楽しくなり、長く使える環境にもやさしいノートカバーになっています。
新規のプロジェクトだったので、需要をとらえる意味もあり、クラウドファンディングを実施。手探りの状況ではありましたが、おかげさまで約150人もの方にご賛同いただきました。一定の成功を見たので、今後販売網を広げていければと考えています。
伝統の和柄に思いを込めた、職人の手仕事が光る逸品を
ものづくりにあたって大切にされているのは、どんなことでしょうか。
私たちは、贅を尽くした最高級品ではなく、手頃な価格で購入できる高級品を追求しています。そのために、国産の原材料と職人の手づくりにこだわり、安心・安全で、身近で永くお使いいただける漆器をお届けできるよう努めています。
商品一つひとつにも、こだわりを持っています。代表の大辻を含め、社員は女性ばかり。みんなで率直に意見を交えながら、商品開発を行っています。
シルクスクリーン蒔絵は、手描きとどのように違うのでしょうか。
江戸時代に山中に伝わった蒔絵の技法を取り入れた、大量生産に適した蒔絵の技術です。手描きの蒔絵に比べて、リーズナブルな価格で商品を提供できます。
一色ごとに精緻な版をつくり、絵柄がずれないように丹念に刷っていきます。中には、20回にわたる印刷を繰り返し、ようやく完成に至る商品も。金粉や色粉で色のグラデーションをつけたり、立体感のある「盛絵」など、さまざまな表現が可能です。これらは、長年の経験を持つ職人による手仕事に支えられています。
その技術を生かした、美しい和柄が表現されていますよね。
伝統的な和柄は、多くの人にとって「なんとなくいつも同じ柄」「古い柄」という印象かもしれません。それもそのはず、昔ながらの柄にはそれぞれ意味があるから伝わってきたのです。例えば鶴の柄は「夫婦円満」。鶴は一度結ばれたら一生添い遂げる、離れないとされているので、婚礼関係にはよく使われます。桜の柄なら、おめでたいことが起こる兆し。春先に一斉に花を咲かせる、生命力あふれる桜の姿から、そうした意味が与えられたのでしょう。
私たちは、日本の長い歴史のなかで、先人たちが和柄に込めてきた願いを大切につないでいきたいと思っています。人は、お土産にはそのときの自分の気持ちに合ったもの、贈り物にはなんらかの願いを込めたものを選びます。もしその品物に、気持ちや願いにぴったりの、意味のある柄が描かれていたら素敵ですよね。生活の中で、意味を持つ和柄のものを持つとなぜか心穏やかになり、ありふれた日常も彩られるはず。商品カタログにこめた「絆和(つなぐわ)」という言葉にも、そうした思いを託しました。
モダンな「持ちたくなる和柄」を若い世代にも
一方で、新しい感性を取り入れたモダンな柄の商品もありますね。
蒔絵の柄は、伝統をしっかり継承している一方で、数十年単位で大きく変わっていないという面もあります。和柄に関する先入観を取り払い、ノートカバー「絆世 TSUNAGUYO」のように、若い方にも使ってもらえる現代的なデザインにも挑戦していかなくてはいけません。
「絆世 TSUNAGUYO」で用いた5つの文様にも、それぞれ意味があります。たとえば「菊」は“延命長寿・無病息災”、「結」は“人と人の縁を結ぶ・感謝の気持ち”、「新芽」は“物事が始まる兆し・新しい門出”。和柄の意味を大切にしながら、角度によって見え方が変わったり、キラキラと輝くような蒔絵ならではの質感を活かし、多様な商品を開発していければと思います。
上質で魅力的なものを幅広くラインナップできれば、「ひとつ持ってみようかな」と思っていただけるはず。これからも、若い世代が蒔絵をより身近に感じられるような商品を生み出していきたいですね。
山中の産地、そしてシルクスクリーン蒔絵の今後について、どんなふうにお感じですか。
四季それぞれに異なる表情を見せる自然に囲まれた山中は、人間愛を感じられる、人のつながりが強い産地です。特徴はやはり、職人がそれぞれの工程を分業で担っていること。企業が囲い込むのではなく、個性と技術を持ったさまざまな職人さんたちと協力しながらものづくりをするため、多種多様で高品質な商品が生まれます。
産地を盛り上げていくためにも、若手の職人さんの育成は欠かせません。しかし、印刷技術の一種であるシルクスクリーン蒔絵は、手描きと異なり、産業技術センターなどでは習得できないのが現状です。未経験から一人前の職人になるには、失敗を繰り返して経験を重ね、4~5年ほどの年月が必要と言われています。職人さんあっての山中塗。私たちもともに歩んでいきたいので、興味のある方はぜひチャレンジしてほしいです。
最後に、デジタル展示会を訪問された皆さんにメッセージをお願いします。
当社では、シルクスクリーン蒔絵の技術を生かした、さまざまな商品をご提供しています。また、オリジナル商品は数が多いほど、廉価につくれるのが魅力です。多彩な柄を選択可能で、ワンポイントなどレイアウトも自在。これまでも、大きな寺院から御朱印帳の注文をいただくなど、多くの実績があります。ご要望に沿ったものになるよう、ご相談しながら進めていきますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。