2021年12月1日
“ケの日”の食事をもっと楽しく。大島東太郎商店の「普段着のうつわ」
木地職人の工房から生まれた漆器メーカー・大島東太郎商店は、木の温かみを感じるデザインのうつわを多数展開しています。近年では、国内のデザイナーとのコラボレーションによる、ユニークな商品も話題に。これらが生まれた背景を伺いながら、同社がものづくりにかける想いについて伺いました。
使いやすいものは美しい。オリジナル商品「コットン楽椀」に込められた想い
大島東太郎商店のうつわは、一般的な漆器と比べると、カジュアルに使える印象を受けます。「普段着のうつわ」という表現もされていますが、製品にはどのような特徴があるのでしょうか。
特別な日でなくても、毎日の食事で気を張ることなく使えるうつわを作り、販売しています。「使いやすいものは美しい」を創業以来のモットーに、扱いやすく、機能的で、飽きの来ないデザインのものづくりを追求してきました。
その代表例が、加飾挽きでうつわの表面に細かい筋を施した「コットン楽椀」シリーズです。筋が滑り止めになるので手で持ちやすく、箸などによる傷も目立ちにくいデザインになっています。コットンとはいいますが、もちろん実際に綿を使っているわけではありません。洋服に例えるなら、シルクの余所行きではなく、コットンの普段着のように使ってもらいたい――そうした想いを込めて名付けました。筋が入った表面も、どこか綿布のような表情に見えるのではないかなと思います。
シンプルなデザインで、使えるシーンも幅広そうです。
多用途であることも「使いやすさ」には欠かせないポイントです。例えば、「コットン楽椀」は汁物だけでなく、ご飯ものにもうってつけです。また、グッドデザイン賞をいただいた大ぶりのお椀「壱ノ椀」も、丼物から麺類まで、さまざまな料理に使っていただけるようになっています。
扱いやすく、シーンを問わず使えるとなると、漆器がぐっと身近になりますね。
うつわには料理をおいしくする力、そして食事という場を楽しくする力を持っていると、私たちは考えています。そうした楽しみを、いわゆる「ハレの日」だけに閉じ込めておくのはもったいないですよね。一年の大半を占める「ケの日」の食事こそおいしく、楽しくできるようなうつわを一つでも多く作りたい、というのが、私たちの目標です。
木地師の伝統を受け継ぐ“商人”。職人の後継者育成にも尽力
山中塗のメーカーの中でも、大島東太郎商店は木地職人をルーツとしているのが特徴的です。木の質感を活かした普段着のうつわにも、そうしたメーカーの歴史が表れているように感じます。
1909年に創業し、当社の二代目までは、自社の工房で木地挽きをしていました。現在では、100年以上の歴史の中で蓄積してきた経験・知見を活かして、山中の職人たちと共に、伝統的な製法でのうつわ作りに取り組んでいます。材料となる木材は、すべて国産のものを使用。仕上げ方に応じて最適な材料を選び、材料の特性を活かした製品づくりができるのは“木地商人”ならではの強みだといえるでしょう。例えば、木目を見せるならケヤキ、見せない場合はミズメやトチ、その中でも棗を作るならミズメを選ぶ、といった具合に、お客さまのご希望に合わせて、ベストなご提案をさせていただきます。
商人(あきんど)となってからは、社内では木地挽きはしていないのですが、今でもろくろや乾燥設備は残っています。独自に材料を仕入れて乾燥・保管もしており、常に一定の材料を確保できているため、急ぎの要件にも対応可能です。
山中の木地職人の後継者育成にも関わっていると伺いました。
2018年頃から、付き合いのある工房へ弟子入りしている、石川県轆轤技術研修所の卒業生の育成をお手伝いしています。一人前の木地職人になるためには、とにかく数を挽いて技術を磨くことが不可欠です。そこで、その卒業生が挽いた木地を、挽いた分だけ当社が買い取るという取り組みを始めました。工房として最低限のクオリティを担保してもらうことを条件に、商品化も実現。取り組みの1年目に作った椀は「これから椀」、2年目は「それから椀」と名付けて、『家庭画報』で販売しました。見習い職人が木地挽きした商品ということで、お客さま向けの価格は抑えていますが、卒業生本人には、一人前の職人と同等の対価を支払っています。その分、確かなクオリティのものを仕上げてほしい、というメッセージも込めていますね。3年ほど取り組みを続け、その卒業生は独り立ちしていきました。
意義の大きな取り組みですね。今後も継続されるのでしょうか。
はい。同じ工房に、新たに見習い職人が弟子入りしているので、今度はほかのメーカーも巻き込んで、同様の取り組みをしようと考えているところです。私たちの事業を支える伝統的な木地挽き技術を未来へつなげていくことが、産地・山中への貢献にもなると信じています。
卵かけご飯専用食器、木製スマホスピーカー――デザイナーたちと広げる技術・アイデア
近年では、他分野のデザイナーとのコラボレーションにも積極的です。こうしたコラボはどのような経緯で実現しているのでしょうか。
石川県内のデザイナーとのプロジェクト「O project」が最初のきっかけです。県内の勉強会から発展したプロジェクトで、参加者は工業製品のプロダクトデザイナーからグラフィックデザイナーまでさまざま。今までにない視点でものづくりをした貴重な経験になりました。
例えば、同プロジェクトで作った「御玉椀」は、なんと卵かけご飯を楽しむことに特化した食器です。ご飯椀、卵を溶くお椀、殻入れ兼ご飯の湯気を受ける平皿という3つのパーツから成る、巨大な卵のような形のうつわになっています。てっぺんのくぼみに、Lサイズの卵がちょうど入るのもポイントですね。
こうしたユニークな取り組みが評価され、県外のデザイナーからもコラボを持ちかけられる機会が増えました。有名なところでは、柳宗理が設立した柳工業デザイン研究会さんや、ミラノでも活躍するnendoさんとのコラボレーションも実現しています。
デザイナーコラボから生まれたスマートフォン用スピーカー「蓄音木」は県内で賞も受けています。
「蓄音木」は、スマートフォンから出る音を木の箱の中で増幅させる、電源不要のスピーカーです。天然木の反響によって生まれる自然で柔らかな響きは、長時間聴き続けても疲れません。こうしたアイデアや技術、デザイン性が評価され、国際漆展・石川2014では、第10回展記念特別賞を受賞。また、経済産業省による地方産品のPRプロジェクト「The Wonder 500」にも選ばれています。
デザイナーのアイデアから生まれた製品は用途や形状が個性的なものが多いですが、その分、難しさもあるのではないでしょうか。
確かに、デザイナーたちの独創的なアイデアを実現するのが、どうしても難しいことはありますね。それでも、持っている技術をもとに実現可能性を探り、提案をしていくのが、私たちの役目です。そのような試行錯誤の中で技術的に勉強させてもらうことも少なくありません。例えば、同じ形の製品を異素材で展開するブランド「双円」とのプロジェクトでは、スズやガラスに並ぶ素材として、木の素材の製品を当社が担当しました。「木の素材感を活かしながらも、つるっとした表情に仕上げてほしい」というオーダーを受け、ケヤキの木目を見せながらも、木目部分まで塗料を埋めて滑らかな質感を出してみました。こうしたコラボは、当社の技術やアイデアの可能性を広げる機会にもなると考えています。
使う人も作る人も楽しい、遊び心のあるうつわづくりを
今後、コラボしてみたいデザイナーの希望はありますか。
結論からいえば、どのようなデザイナーの方でも大歓迎です。過去にご相談いただいたケースでも、お断りしたことはほとんどありません。当社がお力になれるものであれば、ぜひ前向きにチャレンジさせていただければと思います。
最後に「デジタル展示会」を訪問された皆さまへメッセージをお願いします。
使う人はもちろん、作り手も楽しくなるうつわ作りを心掛けています。「伝統的な製法のうつわ」というと、少し堅苦しいイメージを抱く方もいるかもしれませんが、そうした歴史を受け継ぎながらも、新しいことへのワクワク感を忘れずにいたいと、私たちは考えます。こうした“遊び心”を共有できる小売店さまやデザイナーさまと、ぜひ一緒にお仕事をさせていただければ幸いです。共にうつわの魅力を味わい、発信できることを楽しみにしています!